「文さん、風邪引いてたんですって? もう大丈夫なの?」
「ええ」
女学校の春休みが終わり、新学期が始まる、というときに文は熱に喘いで学校を休んでしまった。どうやらここの所の寝不足と、退治した妖の気に当てられたせいだろう、と天薨は言っていた。
始業式とその次の日は大事を取って休み、今日が初登校となる。
何だか賑やかな教室の雰囲気に、文は首を傾げる。元々女子校なので、女の子同士のお喋りが賑やかなのは当たり前なのだが、当たり前の談笑というにはやや熱っぽい色を帯びているような気がしたのである。
何があったのだろうか、と思いながら席に着くと、隣の席の久那怜子がお早う、と声を掛けてきた。文も挨拶を返して、ついでに何かあったのかと聞く。すると、怜子はくすりと笑って話し始めた。
「あのね、永田先生、いらっしゃったでしょう?」
「保健医の?」
「そう。永田先生、今産休を取られてるそうなの。で、今、その間の臨時の先生の話で持ちきり」
「?」
話が掴めてない文に、怜子は更に続ける。
「今回の先生、とっても若い男の先生なのよ」
言われて、文は妙な予感に襲われた。
いくら何でも、あり得ないだろう。おそらく、きっと、多分──だけど。
「……もしかして、二十代半ばくらいの……?」
「やだ、見たの? 賀上先生」
──やっぱり……。
心の内で呟きながら、ええ通りかかったのをね、と適当に誤魔化した。
「──天薨」
窓の外を眺めながら、誰にも聞こえないように文はぽつりと呼びかけた。
『何だ?』
「──これが、『定め』という事?」
それにしても、余りに突然で、余りに出来すぎていて、余りに理不尽だ。
『かもしれんな』
至極冷静な返答が返ってきて、文は溜息を吐きながら再び窓の外を見やった。
すると眼下に白衣を纏った青年が通りかかって、ふっとこちらに視線を向けた。
「!」
文が驚いたように、青年も驚いたらしく、大きく目を瞠っていた。数度の瞬きの後、彼の顔が歪んで笑いを堪えていた。きっと、彼も定めと言うのは突然に、予告も無しに目の前に現れるものなのだと改めて実感したに違いない。
気付けば文は小さく笑っていて、そのことに二度苦笑する。
──これが、『定め』なのかもしれない。
少女はこっそりと胸の内でひとりごちた。
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