E z a r E d e r r a


Pre-Step

 ───あなたは予言をするよ。世界をゆるがす予言をね───

 唐突にそう言って、彼はくすくすと笑った。

「予言?」
 彼女は目の前にいる彼───見た目は少年だ───に聞き返した。

 いつも、そうだ。
 急に、実体を伴わない姿で目の前に現れては、こうして突拍子も無い事を告げにやって来る。この様なことは、もう珍しくもなく、日常茶飯事と言っても良いが、未だに腑
【ふ】に落ちないものがある。
 しかし、それを口にするほど、彼女は饒舌
【じょうぜつ】な質【たち】ではなかった。

 明るい金茶色の長い髪を一本にまとめた、緋色【ひいろ】の双眸【そうぼう】を持つ少年。成長途中の少年らしい細い手足についているのは、細かい銀細工の飾り輪【サークレット】
 彼は窓枠に腰掛け、両足をぶらつかせている。その度に、しゃらしゃらと涼しげな音を散らす。

────そうだよ。僕が見た『未来』をあなたが『現在』で予言をする。
    『未来』を予言するかどうかの裁定はあなたが することになっているけど、今回は違うよ。

「どういうこと?」
 相変わらず楽しげに、少年は笑っている。
 彼女はその見慣れた笑顔に藍色の宝玉
【オーブ】を向ける。
 夜の闇を抱く、静かだが峻烈なその両の瞳を、少年は動じることなく見据える。

 ───もう決定された『未来』だよ。 古の神々の刻んだ時間の『楔【くさび】』。
    
それが今回の予言。

「だから、その内容は何なの?」
 長い、白銀
【プラチナ】の髪を背に払う。瞳を鋭く細める。

───天頂の庭【エサール・エディア】の復活の兆しを、あなたは予言する。
   
そしてその兆しに準ずる結果も。その中で、あなたは最悪の結果を選ぶんだ。
   つまり、古の空中都市
【エル・ドラド】の復活をね。

「……」
 人として生まれ、その存在が成し得るかぎりの栄華を極めた一族が生み出した技術の粋
【すい】
 機械知性を支配し、そして逆に機械知性に利用された愚かな一族の創造した都市。
 空中に浮かぶ、箱庭───天頂の庭
【エサール・エディア】
 それが。

「復活?」
 何故。
 言外にそう問うたが、少年は首を振った。

───知らないよ。僕はただ決められた仕事をして るだけだからね。
   ただ…世界は変わるだろうね。
   『聖巫
【せいふ】』、そう呼ばれるあなたの予言で。

「……」
 彼女は押し黙った。
 人形のように感情のない、冷たい美貌を少年から背け、息をつく。

「『未来』はすでに決まっていると?」
───うん。 変えられないことだって、言ってるじゃない。
「…わかったわ。 忠告をわざわざありがとう、カスパー」
───礼には及ばないよ。 じゃあね、メルキオール。
 言うと、少年の姿がかき消えた。
 今まで見ていた少年の姿は、彼の幻影である。彼は『未来』から動けないのだ。

「……歴史の『楔【くさび】』、か」
 彼女は───メルキオールは小さく呟いた。


Step 1


 聖巫
【せいふ】、と冠される先読みの巫女、現【うつつ】の賢者メルキオールが口にした予言は、瞬く間に、世界に広まった。

───天頂の庭【エサール・エディア】の復活。

 短い、ただそれだけの予言で、人々は震撼【しんかん】した。

 ある者は、その都市の復活を恐れた。
 ある者は、その都市の復活を望んだ。
 恐れた者は、生きた機械知性の暴走が起こらぬように願い、
 望んだ者は、生きた機械知性の力を得られることを願った。

 そして、その予言は、現実のものとなった。
 幾百年前に沈んだとされた白亜の王城は、その姿を再び空に浮かび上がらせたのである。

 別に自分が、愛されているとは思っていなかった。

 その感覚は、幼い時から常に心の中にあったし、それが今でも変わっているとも思わない。
 ここでは自分は異端で、ヒトとしてではなくモノとして扱われている。

 いっそ蔑さげすまれたり、憎まれたりする方がいい。
 うち捨てられた人形のように何の関心も払われないよりも、そっちの方がずっといい。

 それは自分を、少しでも気に留めてくれている、という証なのだから。

「アガット様が…ですか!?」
 聞き慣れた声が、自分の名を呼ぶのが聞こえて、彼はふと立ち止まった。

 謁見【えっけん】の間。
 声が聞こえたのはその部屋からだ。

「そうだ」
 これもまた、聞き慣れた声。
 自分の父親───この謁見の間、ひいてはこのスティーナス王宮の主、の声だ。

「あれは天頂の庭【エサール・エディア】を掌中【しょうちゅう】に収めるための『鍵』だ。
 それがわかったのもつい最近だがな……。
 まさか異端の子
【アナサマ】が我らに光をもたらすとは…意外だったな」
 笑みさえ含む声色。
 会話の話題の主が、自分であることは明白だ。

「……天頂の庭【エサール・エディア】への扉を開く、『鍵』?」
 光をもたらす異端の子
【アナサマ】───
 彼はひとりごちる。口元には、嘲笑
【ちょうしょう】

「……利用するってわけか。俺を」
 吐き気がした。

 どこまでヒトをモノ扱いするつもりなのだろう。
 ヒトをヒトとして見ない王族が、どうしてヒトを治めようか?
 ましてやそんなものが、古の権力の象徴を手中に?

「させるかよ……ッ!」
 彼は唇をかんだ。
 城
【ここ】を出よう。

 ここは自分の居場所ではない。
 ここは生きながらに死んだ場所。
 いる理由など、必要など、彼にはなかった。


Step 2


「天頂の庭
【エサール・エディア】かぁ〜……」
 ぽつりとセルーンはつぶやいた。

 色素が薄いのだろうか、淡い色の長い金髪と、深く透明な、夜明け頃の紫にも似た色の双眸【そうぼう】。人目を引く白い肌。年頃の少女にしては華奢【きゃしゃ】すぎる体躯【たいく】

 その小柄な体を包む、動きやすい旅服と薄いローブ。耳には小さな耳飾り【ピアス】、首には小粒の紫水晶を連ねた護符【アミュレット】、腕には魔術関連だろう文字の刻まれた銀細工のブレスレット。
 手にした杖にも精霊文字
【フィエーラーグリフ】や、いくつかの契約の印が刻まれている。
 おそらくは、魔導師【エクサール】

「聖巫【せいふ】もすごい予言するよね……しかも実際当たってるし……」
 彼女はひとりごち、街の通りを歩きながら空を見上げた。

 そこには、悠然と天上に浮かぶ白い王城。
 今日の様な晴れた空にこそ見るのが正しい。綺麗な白亜の城。

「こら────っ!! 待てぇ─────っ!!」
「?」
 何やら叫び声や喧噪
【けんそう】が聞こえて、街の大通りは騒然【そうぜん】となった。
 真っ昼間での騒ぎは特に珍しくない。よくあることだ。

 声のした方を見れば、逃げている少年と、その少年を追う三十代半ばの男性。
 盗みかな?
 首をかしげながら見ていると、少年と目が合った。

 漆黒の短い髪に、陽光を弾く琥珀色の瞳の少年。
 年は、彼女と同じ頃───十七、八程だろうか。
 驚く程キレイな顔立ちをしている。女でも通用するかもしれない。

 ……などと考えていたら、少年が笑んだ。
 人が、何かを企むときのような、笑み。
 ……ヤな予感……。
 セルーンはそう感じて、きびすを返そうとしたときにはもう遅かった。
 少年は、彼女の腕を取っていたのだ。

「……ちょっ、ちょっとおっ〜!!」
「目が合ったのが運のツキ! 君、魔導師
【エクサール】だろ! 何とかしてくれ!」
「な、何とかって……! 何したのよ!?」
「や〜、ちょっと腹減ったから食い逃げ。持ち合わせなくてさ〜」
 あっけらかんと言い放つ彼。

「てゆーか何でわたし巻き込まれてんの!?」
「あっはっは。 道連れ」
「あのねぇ〜!!」
「早く逃げないと捕まるよ」
 少年に腕を引っ張られるがままになっている彼女に、言う。

「わ、わたしは別に逃げなくても……」
「平気だと思ってるわけ? 君のコト仲間だって言ったら結局追いかけっこするハメになるよ」
「……うっ……」
 やられた!!

「どうする?」
「わかったわよぅ! 何とかすればいいんでしょ!!」
 涼しげに言う少年に対し、少女は自棄
【やけ】気味にそう叫ぶ。そして、彼女は呪文を口にし始める。

「風の流れの律動に於いて、契約に託されし精霊の言葉に於いて、空を駆ける天翼を宿せ!」
 風が動き、セルーンらの身体を浮かばせ、運ぶ!
 彼らの姿はあっという間に大通りから消えた。

「ここまで来れば大丈夫よね」
 と言って、術を解き、地面に降り立つ。
 街の郊外まで来てしまったためか、人の姿は見られない。

「悪いな。巻き込んで」
 彼は、案外素直に謝る。
 そのためか怒る気も失せてしまい、半ば毒気が抜けた様に、セルーンは肩を落とす。

「……全くだよ……」
 悔しいので、当てつけに小さく息をつき、恨めしげに呟いて見せた。
「ごめん。 あ、そだ。君、これから行くあて、ある?」
 苦笑するみたいな調子でもう一度謝罪を口にする。本当に悪いと思っているのかは、分からないが、取りあえず不問にしておく。
 それよりも、急な問いかけの方に興味を覚え、セルーンはきょとんと目を見開いた。

「? 別にないけど」
 そう答えてから、彼女はすっ、と目を細めた。
 ───こちらを探る気配が二つ、三つある。

 まだしつこく追ってきたのかとも思ったが、違う。気配の消し方は、それなりに訓練を受けた者か、場数を多く踏んできた者のものだ。
 そもそも魔導で空を飛んだのだから、追いつけるハズもない。

「……見つかったか……」
 表情を消し、彼が呟く。
 先程までの親しみやすく、そしてどこか幼さを感じさせた雰囲気はどこかへ消え失せ、やたらと大人びた、張りつめた雰囲気に変わる。

 その変わり様に少々驚きつつ、セルーンが問う。
「……まさか、知り合いじゃないわよね」
「それこそ『まさか』だな。
 ……ったく、ご苦労なこった」
 明らかに揶揄
【やゆ】の響きが感じ取れる口調で吐き捨てる。

 そして彼は、セルーンを庇かばうような位置に立ち、声をかける。
「出てこい。今なら人はいない」
 大きくはない、だが、よく通る声で言う。
 その間に、セルーンは大人しく少年の背に隠れながら、気付かれぬよう呪
【しゅ】を口に上らせる。

「戻られるおつもりは?」
 出てきた気配は、やはり三つ。リーダー格らしい男が問う。

「……どちらにしても、代価は俺の命だろ? ならその問いには意味がない」
「そうですな。では……」
「詞
【ことば】は我と共に在り。律【おと】は汝と共に在り。我が腕【かいな】にいだく黄金【こがね】の花は展開し汝が手のひらに踊る星は弾ける!」
 男が、まさに行動に移そうとしたのそ時、セルーンが呪文
【スペル】の最後の一節を発し、ひゅっ、と杖を男たちに向ける!
 同時に術は発動し、金色の光が生まれる!

「なッ!?」
 男は明らかに動揺し、後退する。
「今のは、ワザとよ。 次はあてるわ」
 杖を向けたまま、キッパリと言い放つ彼女。

 男はギリっと奥歯をかみしめると、
「……どうやらこのままではこちらの不利ですな。今回はこれで退きましょう。
 それでは───」
 リーダー(多分)の男が言って、そのまま立ち去ってしまった。
 彼らが消えるまで待って、セルーンはふう、とため息をついた。

「………さっきの術はやりすぎのよ〜な………」
 頬をかきながら、漆黒の髪の少年は呆れた様に言う。
「う〜ん。でもあれくらいのハッタリはかましとかないと帰らないかな〜って…」
 小首を傾げて、少女が言う。おとなしそうな顔をして、なかなかに大胆な奴である。

「で、さっきの続きだけど」
「うん? なぁに」
 彼は少しためらってから、続ける。
「お雇い魔導師
【エクサール】、する気ない?」


Step 3


「……。」
 ででーん、と佇む大きな屋敷。
 用があるから、と彼───アガスティス=リディンに連れられて来たのがそこであった。
 彼女───セルーン=イーズル=フィアは呆然とその屋敷を見つめた。

 先程の街、ランネアのはずれにある森に建つ、少々古い造りの館だ。門をくぐった先にある庭の草は刈り込まれ、花壇もちゃんと手入れが行き届いていることから人が住んでいるのは確かだろう。

「……ここに用があるの……?」
 思いっきり眉をひそめて、セルーンが問う。
 食い逃げなんかした彼に、こんなデカイ屋敷に住むよーな知り合いがいるとわ、にわかには信じられないのだろう。

「何、その疑い深い目わ。失礼だなぁ〜」
 セルーンの物言いを、あまり気にしていないのだろうか、アガスティスは軽く苦笑したのみ。
「ここに住んでる奴、多分セルーンも知ってると思うよ」
「………は……?」

 屋敷に入ると、一人の女性が二人を迎えた。長い黒髪をきっちりと結い上げている。
 穏やかな黒スグリの色した両の目を細め、柔らかく笑う。

「お久しぶりでございます、アガット様。
 久しくお目にかかれませんで、寂しく思っておりました。
 本当に…何年ぶりでございましょう」
 女は、思わぬ再会に驚きを隠せないようだが、嬉しそうな表情でそう言った。

「六年ぐらいじゃないか? 変わってないな、フィーラは」
「そうでございましょうか? 私わたくし自身ではわからないのですが……。
 そうですか……もう六年も経ちますのね……。
 それだけ時が過ぎればアガット様もお変わりになるというもの」
 女性──フィーラと言うらしい──は、ゆっくりとした話し方と、独特のゆるやかな雰囲気を纏
【まと】う、若い(と言ってもセルーンやアガスティスより、少なくとも五つは上だろうが)女だった。

 懐かしむような、だが何処かぎこちなさの残る声でしみじみと言う。
 細められた双眸
【そうぼう】は、緩やかな曲線を描き、母親の様な暖かみのある表情を彩る。
「ところで、後ろの女性はどなた様ですか? 魔導師
【エクサール】の方とお見受けしますが」
 ふと気付き、黒い瞳をセルーンに向けて問う。

「はい。そうです」
 いきなり話を振られて、少々声が上擦
【うわず】ったが、フィーラは特に気にする様子もなく、相槌【あいづち】を打つ。

「まぁ、やっぱり。
 雇い主は……アガット様?」
 セルーンに問うた質問は、彼女の代わりにアガスティスが答えた。
「まだ正式には雇ってないよ。
 ───バルタザールは、いる?」

 ……?
 アガスティスのセリフに出てきた人名に、セルーンが首をかしげる。
 どこかで聞いたことのある名前───
「ええ。ご案内いたしますわ。
 こちらへ───」

 その部屋は、どうやら書斎のようであった。
 机の上にうずたかく積まれた本の間に埋もれるようにして、その男はいた。

 読書に耽【ふけ】っていたが、ドアをノックする音とフィーラの声、そして来客の名を聞き、部屋へ通した。
「……またこんなとこにいんのかよ……。飽きねーのか?」
 アガスティスが勝手にその辺のイスに座り、言う。

「残念ながら、飽きないな。
 今日は何故だかアガットが来るような気がしていた。
 ──天頂の庭
【エサール・エディア】も浮いたしな」

 そう言うと、男は立ち上がる。
「場所を変えよう。話があるのだろう?」
「そーいうこと」

「天頂の庭【エサール・エディア】の復活……。来なくてもいい時がやって来たな。
 しかもお前が生きている時に。
 皮肉なものだな……そう思わないか? アガット」
 その問われた本人と同じく漆黒の、長い髪をまとめた男は、淡い青緑色
【アクアマリン】の双眸【そうぼう】をゆるやかに細めた。

「………面白がってるだろ………?」
 不満げにアガットが呟く。
「まぁ、多少はな。
 ……ところで後ろのお嬢さんはアガットの連れか?」
「ん。まぁ、ちょっとした縁で雇おうかなーって…」
「セルーン=イーズル=フィアです。
 …あの…バルタザールさん?」
 名乗ってから、彼女は控えめに男の名を確認する。

「そうだが? 何か?」
「もしかして………三賢者…ですか?」
 セルーンの問いに、男は───バルタザールは小さく笑って首を振った。

「その問いには後で答えよう。
 まずはアガットの話を。
 ───まぁ、アガットのしたいことなど大体わかるがね」
「そりゃ、バルはな」
 珍しく略称を使い、青年の台詞に突っ込むアガスティス。
「…アガスティスのしたいこと?」
 首を傾げ、セルーンが問う。

「そ。 あ、別にアガットでかまわないよ。俺も呼び捨てにしてるんだし……。
 で、何だっけ?
 そうそう、俺のしたいことだったな」
 そこまで言って、言葉を切る。笑みこそ浮かべなかったものの、その瞳が、鋭く、何処か楽しげに光ったことに、セルーンは気付く。

「それは、天頂の庭【エサール・エディア】を落とす───つまりは封印することだ」
 さらりっと言ってのけたので、セルーンは理解するのに数秒かかった。

「ええぇぇぇ──────ッ!?」
「……予想通りのリアクションだなぁ……」
「ノン気なコト言わないでよッ! 天頂の庭
【エサール・エディア】の封印!? そりゃあ権力の象徴とかって言われてるけど…ッ!
 そもそもあそこに入るには『鍵』となる人間が必要なのよッ!?」
 そこまで一気にまくし立てて、はた、と気づく。
 ………まさか………

「異端の子【アナサマ】……って、知ってるか?」
「…知ってるわよ」

 魔導師【エクサール】などの使う魔導とはまた違った、未知の力を扱うことのできる者の名称だ。
 彼らの扱う力は未だ解明されておらず、それ故に忌
【い】まれる。多くは赤ん坊の頃に闇に葬【ほうむ】られるので、彼らの人口は絶対数的に少ない。
 お目にかかることも、ないと言っても過言ではない。

 しかし、この異端の子【アナサマ】というのは、忌まれると同時に、逆に高い地位に置かれることもある。
 ───それが世間で『聖巫
【せいふ】』と呼ばれたりする存在だ。

 つまりは、異端の子【アナサマ】が有する力によって、その者の運命は分けられる。
 生か死かに───

「天頂の庭【エサール・エディア】が復活するという予兆をあいつらが聞くまで、俺は疎【うと】まれ続けた。
 小さい頃は疎まれる理由わけが分からなかったけどな」

 アガスティスは言って、指先を服の上から首筋にあてた。
「ここに刻印がある。異端の子
【アナサマ】である証だ」
 話すアガスティスの様子は、彼の様であって彼でない。
 それは、彼の瞳が、妙に無機質に見えたから……だろうか?

「……」
「それで───多分、予想はついてるだろうけど、俺がその『鍵』だ」
 ………やっぱり………
 セルーンが心の内で呟き、息をつく。

「何で俺は殺されなかったんだろうな……。まるでこの時のために生かされてたみたいに……」
 ぽつり、ともらしたその言葉が重く響き、その場に波紋を呼ぶ。

「アガット」
「何だよ。バルタザール」
「悲観的な考えはよせ。暗くなるだけだ」
 言われて、アガスティスが笑む。小さく。

「わかってる。
 やっぱイカンなぁ、昔話は。空気重くなるから二度と話さねぇ」
「ねぇ……。 どうして封印したいの?」
 セルーンの問いに、彼は表情に僅わずかに翳
【かげ】りを見せたが、すぐにそれを消し、はっきりと、

「そこらの権力バカに、天頂の庭【エサール・エディア】なんぞ渡せるかっての。
 ……ま、ちょっと復讐
【ふくしゅう】のところもあるけどな。
 どうせなら、あんなメンドくさい遺跡、ない方がいいだろ?」
「そう、かもね」
 元の様子に戻ったらしいアガスティスに、安堵しながらセルーンが呟く。

「で、どーする?」
「へ?」
「お雇い魔導師
【エクサール】をするかってこと。ちゃんと雇う理由は言ったぞ」
 微笑んで、アガスティスが言う。

 実際に、どういう理由で雇うのか、明確に言われてはいない。それ故に、断ろうと思えば、断れる。
 だが、答えなど───決まっている。

「ここまで聞いちゃったんだもの。
 『はい、そーですか』ってワケにはいかないわよね」
「ほい。契約成立。報酬とかはまた後でってことで」
「一つ教えて欲しいんだけど」
 
取りあえずアガスティスの話に一段落ついた所で、少女は改めて口を開いた。

『何だ?』
 声をハモらせ問い返す二人。

「あなた達の正体よ。
 まさかただの人ってわけじゃないでしょ」
 セルーンの言葉にバルタザールは苦笑して、

「ああ、そうだな。
 私は貴女が初めに言ったとおり三賢者だ。そして───」
 バルタザールがちらり、とアガスティスに視線を送る。

「俺はスティーナス皇国の継承権を持ってる。
 ま、役に立たんとは思うが……一応皇子ってことになるのかな」
 そう言って、アガスティスは肩をすくめて苦笑した。


to be continude main step......


あとがき

高校時分に書いた長編
の序章、のつもりで書いた作品。
部活の冊子にも使用させて頂き、サイト掲載にあたり加筆・修正を加えたものです。

空中都市やら魔法やら異端やら賢者やら、と本職であるファンタジーの色濃い作品で、影響はまんまラピュタだと思います。
「Dawn Timbre」と世界観が同じですが、時間軸はずれてた……ような気がします。キャラクタが全く別なので、別物と考えてもらっても結構です。
ちなみにタイトルはゲール語……だったはず(汗)
読みは「エサール・エディア」、意味は「美しい星」。
以前のサイト名でもありました。

そも長編を想定して書いた序章なのですが、全く続きを書く気配がありません。
一応予告編という形で掲載を長くしておりましたが、実質的には読み切り短編と化しております。
現時点でも続きを書く予定がないのですが、世界観や設定はどこかに流用するかもしれません。

ご拝読、ありがとうございました。

玉蟲 拝 2007.6月付