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 雨音がすると外に出たくなる。



 傘も差さずに飛び出して、今すぐにでも。

 私は白のワンピースを着て、白いミュールを履くとドアを閉めるのもそこそこに雨の中を歩いた。

 鉛色で、どんよりと落ちる空。いつもより空の場所が近くなったような気がする。

 こうして、あなたに会いに行く時はいつも雨。

 いつしか私は、わざと傘を忘れて雨の中を立っていた。

 すると、馬鹿だなぁって笑って傘を差し掛けてくれる。その時の雫の冷たさを、まだ覚えている。風邪引いたらどうするんだって、抱きしめてくれる両腕の暖かさを、まだ私は忘れていない。



 雨の中を歩く。

 すれ違う人は私を哀れな目で見ていく。或いは馬鹿にしたような。

 どんなに嘲笑されても、私は構わない。ただあなたが認めてくれる。それだけで、良い。

 人見知りだった私。

 強がりだった私。

 そのくせ、誰よりも寂しがりだった私。

 私という人間を受け止めてくれた、あなたがいるだけで、私の世界は鮮やかに色付いていた。



 だけどあなたは雨の日に逝った。



 雨音がすると外に出たくなる。

 傘も差さず、まるでそうすればあなたに会えると願っているみたいに。

 私は白のワンピースを着て、白いミュールを履いて歩く。

 雨の滴は、涙を隠すに適当で、熱を持った瞼に優しい。

 ……あぁ、雨って、冷たいばかりじゃないのね。

 ねぇ。もうそろそろ前の角から姿を見せて。

 そしていつもみたいに馬鹿だなぁって笑って、風邪を引かないように抱きしめて。じゃないと、私の覚えているあなたの声と熱が流されて消えてしまう。

 こうして、あなたに会いに行く時はいつも雨。

 私はいつもわざと傘を忘れている。



 あなたがもういないということを、忘れたままで。









































雨の中の魚【2006.7】

やっぱり富士がみたい!様に投稿したSSS(スーパーショートショート)。
八百字以内の掌編です。
6月のキーワード「雨音」「外出」「忘れ物」を元にしています。683文字。

結構雨や水、雷に関する詩が多いので、どっちかっていうと得意分野なキーワードでした。
見た瞬間に、雨に打たれて迷子になる女の人というイメージが出てきたので、それをそのまま文章にした感じです。
タイトルは、正直字面と語感に頼ってるところがありますが……一応、あるべきものが欠けてしまった的な意味合いで付けたつもりです。