【懐古詩編】1-30


30.

この海神住まう水底に
人魚は生きてゐるのです。
哀れ 海の藻屑となりし人
人魚の謳にゆらゆらと。

ばくてりやも波結いて
ゆらりゆらりと漂ふて
不可思議な浄化を象徴してゐるのです。

この海神住まう水底に
人魚は生きてゐるのです。
その白い肉を喰ろうてやろうと 思へども
哀れ 海の波へと結われ消え。

この水底に
皆其処に生きてゐるのです。

嗚呼
哀れ 海の身体と溶け愛し人
哀れ 海の一部となりし人々
美しき人魚の肢体と謳に
ゆらゆらとふるべ。

ゆらゆらとふるべ。


29.

嗚呼 この黒真珠の海の底、
光焦がれる夢見る人魚姫の、
揺れる眼差しきらきらと。

愛し無垢な魂と、
人を魅了せし妖し歌声とを犠牲にし、
人とあること望みしも。

狂える煩悶。
けたたましい嗤い声。
愚かな姫を蔑むように。


嗚呼 この黒真珠の闇の中、
光焦がれる夢見る人魚姫。
手にした懐剣、殺意の象徴。
揺れる眼差しゆらゆらと。

狂える煩悶。
想いに挟まれ頭を抱え、
愚かで純粋な姫を嘲笑うかのように。



果たして姫は 泡となる。


28.

わたし は あなた から 貰うばかり で
何 も 返せて ない よ

わたし の 指に 安物の ガラス の 指輪

キラキラ 輝いて ます
今 でも

わたし は あなた から 貰うばかり で
何 を 返せば良いのか 迷う ばかりで

未だ に 囚われて ます
返して欲しい と 言われる より
残酷。


27.

ラプンツェルよ 今貴女は何想う
歪曲細工の窓枠に 白き手重ね
薄ら氷のごとき切り子硝子の空を見て
貴女訪ねる異邦の王子の その砂糖菓子のような 口づけに酔いながら
なにゆえ貴女は 涙を零す
   
ラプンツェルよ 今貴女は何想う
歪曲細工の鳥籠に 白き花供え
薄ら氷のごとき切り子硝子で腕を傷つけ
その天青石【ブルーレェス】の双眸で
      
貴女訪ねる異邦の王子に 冷たく遠い 眼差しをするのか


26.

錆びた聖句を噛み砕き
真鍮の十字架掲げて
貴方は何を殺すの
指は天を指す
眼は神に届く
この朽ちた地に蔓延る
私を殺すのね

軋んだ誓詞を吐き出し
赤錆の受難の剣を掲げて
貴方は何を守るの
指は天を指す
眼は神に届く
この滅びた血を啜って
私を守れるの?

嗚呼
愚かなる人よ
愛しき人よ
叶うことならば
ただ
聖母の自愛を。


25.

毒々しく赤い花で
私の爪を染める
あなたの首を掻き切って
鉄錆の蜜を嘗める

この爪は 私の凶器

毒を持った赤い薔薇
その刺が私の指に
あなたの瞳をくり抜いて
その唇を奪う

この爪は 私の狂気

赤い花に毒を盛って
あなたの心臓を止めて
私だけの物にする

そう、これは 私だけの狂喜


24.

オパール色になってゆく空眺めて
大好きな歌を口ずさむ
道行く人が振り返っても
大きな声で

今日、君は遠くへいった
もう二度と帰らぬ旅に出ていった
君がさいごに残した置き手紙
哀しすぎて全部燃やした

オパール色した空が濁ってゆく
早く帰らなきゃ
君がいなくなった夜が来る

大好きな歌を口ずさむよ
道行く人が振り返っても
君に届くように大きな声で


23.

僕たちは這ってしがみついてる
都会の錆とも言えるこの街で

有刺鉄線の向こう、あるものは何?
それは絶望だけさ
なんてアイロニーな笑顔で

僕たちは泥水を啜り汚れながら
懸命にしがみついてる
都会の錆とも言えるこの街で

片目だけに巻いた包帯
片手だけにかけた手錠
片足だけ闇に突っ込んでる僕たち
有刺鉄線の向こうあるものは何?
それは絶望だけさ
なんてアルカロイドの瞳で

僕たちは此処に生きている
穢れていくことさえ恐れない
だって有刺鉄線の向こう、見えるものは
手が届きそうなアイオライトの空


22.

僕が行かなくちゃ 君は待っているから
僕が呼ばなくちゃ 君は常に寂しがってるから
新しい光の扉が目の前にある
眩しくて直視できないけれど
手探りでこのまま突き進め!

僕が居なくちゃ 君は独りだから
僕が行かなくちゃ いつも君は泣いてるから
夜の底がすぐ背中にある
黒い腕が僕らを捕らえる前に
手探りで扉を蹴破れ!

僕が行かなくちゃ 誰も走らないから
君を助けられるのは 僕だけだから
眼に灼きついた光の扉に飛び込め!


21.

僕が 見つめる その先で

醜悪な姿を見せつける
艶やかなまでの苦悶の表情に

僕は吐き気を覚える
絶えきれない程の酸の匂いが
まとわりついて離れない

僕が 見つめる その前に

消えて消えてキエテキエテきえ……
頭を抱えて
呪詛のりふれいん


20.

白い焔に身を灼かれ
灰と化しゆく赤き蝶
黒き塵芥と成り果てて夜に溶けゆく潔さ
儚くかそけきなびき去ぬ
私の命もかくあれば
私のこの身もかくあれば
白い焔に見立てたドレスを身に纏い
手首に爪立て血化粧を
其の手に委ねられた私を
灰になるまで抱きしめて
私の命がかくあれば
私の心もかくあれば
私は紛うこと無き蝶となる


19.

毒ある花を
透明なカプセルに詰めて
呑んでしまいましょう

この小さな瓶詰めの麻薬は
とても冷たく
私の血を凍らせる

あなたを殺せなかった報いを
今私が受けましょう

花ある毒を
透明なカプセルに詰めて

この心臓を凍らせてしまいましょう


18.

この光さえなければ
私は淵に葬られ
あなたの息を奪って
私の腕に抱けるのに

混濁の中で
眩暈を覚えるほどの幻灯
目を閉じても灼きつく残像


この光さえなければ
もう こんな世界 壊せるのに


愚かな私を嗤えばいい
私はあなたを埋められなかった

この光さえ なかったなら


17.

もしも今ここで

あなたの背中を押して

あの雑踏の中へ
埋めてしまったら

僕は、どうしたらいいのだろう

黙って
無情に見ていて
その羽根で私を救わないで

泣きそうな顔で言わないで
助けてと言って


16.

今から賭をしよう
君がもしまた僕の前に現れたなら
その時は
僕は間違いなく君を壊すだろう

僕がもしまた君を見つけたなら
その時は
間違いなく僕を撃ち殺して

今から賭をしよう
君がもし僕の前に現れたなら
その時は
僕は間違いなく君を汚すだろう
その前に
君が僕を殺せたら、君の勝ち


15.

全てが夢であればいい
全てが幻覚であればいい
こうして手で振り払い
全てが消えてしまえばいい
考える事も
食べる事も
寝る事も
全部やめてしまえば簡単に
生の放棄
全てが夢であればいい
全てが幻覚であればいい
それならば
こうして手を振り上げて
粉々にこの世界を壊せるのに


14.


さぁ今から狂ったお茶会をしよう
生まれぬ日を目出度きとし
死に逝く者に乾杯を
砂糖を盛った紅茶を注ぎ
カップを掲げ言祝ぎ謳って
誰も知らない
でも誰もが知ってるステップ踏んで
いつまでも
いつまでも
楽しく狂ったお茶会を
あなたはだぁれ?
あなたはだぁれ?
見知らぬ少女を見つけては
お茶会に誘って狂気を注ぐ


13.

このお話の真実を知りたくないかい?
金色の午後の芝生にも
道化師が座る高い壁にだって
どこにも見あたらない真実を
このことは
薔薇の茨の城の王様だって
金の錫杖持つ名高い賢者だって
誰も誰も知らないことさ
このお話の血塗れた真実を知りたくないかい?
さぁ 今こそこの扉を開けて
さぁ 今こそこの鏡を割って
連れてゆきましょう、不思議の国へ
錆びた鍵は要らないよ
君がいることが大切なんだ


12.

この十字架を賭けて
私はあなたを愛しましょう
この白く透明な魂だって
冒涜だとされるくらいに
黒ずんで濁ってしまうまで
私を満たして犯して壊してしまえ
この十字架を賭けて
私はあなたを愛しましょう
制御のきかない愛欲と
せき止められぬ金の密
私の白い柔肌も
ぜんぶぜんぶ捧げましょう
灰になって朽ち果てるまで
ずっとあなたを愛しましょう


11.

また新しいシステムが動き始める
この琥珀色の光を手に透かして
何億光年先に在る神を探そう
瞼閉じて 救いを待つ

たとえ、この腕を取られなくとも
たとえ、この躯が柩に眠ろうとも

そう、僕の魂は此処にある


10.

この座に座るは
全知全能の神に認められし
真実の王のみ
誠、この王国に繁栄をもたらす
この王に
重責と義務の宝石散りばめた王冠を
数多くの命を屠り血を啜った玉座を
人を遠ざけ孤独の軌跡を祝う美酒を
待望と羨望と憎悪をかけての花束を

誠、この王国に繁栄をもたらす
この王に
多くの祝福と皮肉を込めて


9.


美しすぎる、華奢な真鍮の足枷を填め
死に顔にも似た白い顔で、無垢に笑う
誰もが褒める硝子の歌声で歌い
不自由な鎖の腕を伸ばす
虜囚の聖母

美しすぎる、華奢な真鍮の足枷を填め
アンティーク・ドールの石膏の顔で笑う
誰もが涙する硝子の歌声で歌い
その両眼は虚をつかむ
虜囚の聖母の叫び声を
僕はまだ聴いていたいんだ


8.

ESPER

僕を呼ぶ声がする
この声を 僕は知らない
電話で聴く君の声は
甘く切ない旋律

まるで別の世界からの通信みたいに
遠い 遠い 途切れそうなほど

君からの電話がわかるのは
僕だけのESPかもしれない

電話越しの君の声を知らないのは
ただ 狂わない様に、忘れているだけ


7.

懐かしい、月を眺めるために
屋上へ行こう
月球形の給水塔
空とを区切る白銅の手摺
色あせた星座図を広げ
望遠鏡を覗き込む
懐かしい、月を眺めて
僕はため息をつく
欲しかった光景がそこにはあって
色とりどりの星座が
まるで万華鏡の様に移り変わって
明日にはまた
日常が待っている


6.

時の流れのない場所で
迷子の様に
道を探る
目隠しをされた双眸では
曇硝子の様に
不透明で
何かを求めるような指先を
そっと取る
貴女は一体誰?


5.

未来【さき】閉ざされ
見失った
切なくて
寂しくて
何も信じ切れなくて

夢想【ゆめ】奪われ
見失った
悔しくて
悲しくて
誰も信じ切れなくて

ねぇ、お願い
だから私の傍にいて
抱きしめて
お願い……


4.

ソノ手デ

見エナイ宝石ヲ掴ミ取レ

罪ノ狂気ニ身ヲ染メテ

自ラヲ赦ス免罪符ヲ手ニ入レロ

魂ノ安息ハココニハ無イ

傷ツキナガラ

心ハ鎮魂歌ヲ求メル


3.

聞こえぬ聖歌に耳を傾ける、
自らの罪の赦しを得るために

崩れた廃墟の祭壇で、
逆十字の祈りを捧げる
戒めの箱にあるのは
亡き聖者達の、誘いの呪文

さぁ、罪の告解を
さぁ、赦しの免罪符を

「あなたは、何の罪を犯してしまったの?」


2.

誰もがこの地に憧憬を描いて
誰もがこの地に絶望を抱いて
相反する二つの感情を
同じココロに映し出す
誰もがこの地に幸福を感じて
誰もがこの地に不安を感じて
相関している二つの感情を
同じココロに映し出す
始まりも無く
終末も無く
ただ矛盾する真実を静観する
ただ、変わらぬ真実を記録する


1.

その地に踏み込んだ途端
記憶の奔流が僕を襲った

こんなにも、綺麗な世界を
こんなにも、神々しい場所を
知る術を持っていなかったから
目の前の真実を信じることは出来なかった

ただ、何処かで望んでいた何かが
僕の視界を閉ざした